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2020年 野鳥観察の旅 in 佐渡島 ②

 

 

2020年10月2日


 

前回の続き。


ぎっくり腰の痛みに悶え苦しみながら初めて訪れた佐渡島。

面積の広い佐渡島で効率良くトキを探すにはどのようなルートで捜索したらよいものか頭を抱えましたが、Googleの航空写真で確認してみるとトキの生息環境である水田エリアは島の中央に集中していることが分かりました。

両津港を出発して約20分ほど経ったところで難なくトキを発見。

 

 

初めて見るトキは想像よりもやや小さな印象。

稲刈りの終わった田んぼで採餌をしており、意外にも広範囲に動き回ります。

 

嘴を小刻みに動かし採餌をする姿はシギ類の採餌方法に似ており、サギ科の鳥と違いジッと獲物を見つめ突っつくような採餌方法とは異なりました。

活発に動く姿を観察していると突如こちらに向かって飛び立ちましたがあまりの美しさに見惚れてしまい、その姿を撮影することはできず・・・

頭上を飛び越すと少し離れた田んぼに降りたようでしたが、そちらにはアオサギが佇んでいたので比較できるような写真を撮影させてもらいました。

 

 

アオサギの体長が93cmなのに対してトキの体長は76cmのようですが、トキは前傾姿勢でいることが多いようなので二番穂が伸びた田んぼでは姿が見えなくなってしまいそうです。

事前に調べた情報では島内に放鳥+野生個体が約450羽生息しているとのことで他の個体を探してみることに。

できることであれば様々な環境で複数の個体を観察したいと考えていましたが、これが思ったように見つかりません。

450羽も生息しているのであればあちこちで群れを観察できるものと高を括っていましたが、港を出発してお昼頃までの約3時間で見つけることができたのは1+1+1+3の合計6羽。


一体トキの群れは何処に居るのか・・・

こんなはずではと思いましたが、午後になってから午前の苦労が嘘のようにトキを次々に発見。

先ず目に入ったのが草刈りの終わった土手で採餌をする個体。
こちらは時間を掛けて飛び立ちの瞬間を待ちました。

 

 

トキを和名で表記すると朱鷺と書くようですが、色の表現として朱鷺色と言われているようです。

鮮やかな朱色、これぞ朱鷺色といったところでしょうか。

 

 

観察をしているなかでこの朱鷺色が一番よく見えるのは飛び立ちの瞬間だと感じました。

最初に見つけた個体が飛び立った瞬間、この朱鷺色に見惚れ身動きが取れなかった理由がこの美しさにあります。

 

 

だからと言って故意に飛ばすのは厳禁。
そもそもの話になりますが、警戒させて飛ばしてしまった写真は美しさに欠けると思います。

写真の好みは其々ですが、特に飛翔シーンの写真を見ると警戒させた場合の姿は一目瞭然。
一定程度距離を取ろうとするため背面の姿になり、撮影した写真をよく見ると目線だけがこちらを向いているといった画像を目にすることがあります。

これはサイズが大きな鳥ほど顕著に見られ猛禽類を撮影した画像ではよく見られるのではないでしょうか。

 

 

トキの場合も然り、飛翔シーンの撮影は追って作り出さない方が良い場面を見ることができるでしょう。

飛び立ったトキは直ぐ近くの田んぼに降りましたが、少し奥の方でも別の個体が採餌をしていたのでそちらを観察。

背景に山を入れ生息環境を上手く取り込むことができました。

 

 

こちらでは2羽が離れることなく行動していたのでペアだったのかもしれません。

よく見てみると片方の個体は足環をしていないことに気が付きました。

 

 

放鳥された個体同士が繁殖し野生下で生まれた個体と判断して間違いないでしょう。

2003年10月10日、日本最後の野生個体である『キン』が落鳥したことで日本では絶滅扱いとなりましたが、中国から譲渡された個体で人工繁殖が進められ順調に数を増やしたようです。

これらの個体が野生復帰できるよう順化ケージでトレーニングを受け、放鳥された個体が野生下で繁殖することにより現在は絶滅から絶滅危惧種ⅠA類に評価が変更されました。

 

 

嘗て日本各地にトキが分布していたそうですが、こうした光景が日常だったのかもしれません。

見るはずのなかった光景をこのように自分の目で見ることができたのは、トキを野生復帰させるため多くの方が尽力されてきたからこそです。

コウノトリに関してもトキと同様に野生復帰の取り組みに対しては肯定的な方もいれば否定的な方もいることでしょう。
時として他の生態系への影響も考えられるので、バランス良く嘗て日本にあった自然な姿になることを心から望んでいます。


話は観察に戻って、別の個体群を探してみるとこちらも苦労することなく見つけることができました。

 

 

午前中の苦労は一体何だったのか・・・

採餌する姿を暫く観察してきましたが、撮影した画像を最大まで拡大しても「カエルかな?」と思える程度で残念ながら確信に迫ることができず。

そこで注意深く見ていると面白いことに気が付きました。

比較的乾いた田んぼではシギ類のように嘴を小刻みに動かし採餌をしていましたが、水の張った場所で採餌をする際には嘴を半開きにして首を左右に振りながら獲物を探していました。

 

 

まるでヘラサギの採餌方法を彷彿とさせる動き。

サイズ、首を伸ばして飛翔する姿、後頭の冠羽もヘラサギに共通する部分が多いようです。
考えてみるとヘラサギはトキ科の鳥なので当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。

農機でえぐられた部分は餌が採り易いようで、ここではドジョウを捕まえていることが判明しました。
こちらは画像を拡大して、はっきりとドジョウと分かります。

 

 

反対側の田んぼではトキの水浴びを見ることもできました。

水浴びのシーンはなかなか豪快。

 

 

ことわざで『カラスの行水』という言葉がありますが、同じ鳥類でもトキは全く異なり長風呂のようです。

正直なところ「一体いつ終わるんだ?」と思うほど長い・・・

 

 

水浴びが終わってからの行動にも特徴があるようで、ジャンプをするようにして水辺を離れると何度もジャンプしながら羽ばたきを繰り返し水切りをしていました。

 

 

面白い行動をする個体だと思い眺めていましたが、他の個体も同様の行動を見せたのでトキ特有の行動なのかもしれません。

いずれにしてもここでも綺麗な朱鷺色を見ることができて感激。

 

 

水切りが終わると風呂場から脱衣場に移動するように少し離れた畔に移動。

こちらで念入りに羽繕いをしていました。

 

 

一連の行動は他の個体にも見られ、水浴び場を譲り合い、水浴びを終えると畔に移動する姿は順化ケージでトレーニングを受けた名残りによるものなのか・・・

何処か人間っぽい一面でもあり面白いものを見ることができました

 

 

私が見たものが偶然でなければ、綺麗な朱鷺色を見るには水浴び後の行動に着目するのも良いかもしれません。

いずれにしても警戒させてしまっては見ることができませんし、個体によってはかなり警戒心の強い行動を見せることもありました。

特に音には敏感だと感じましたし、群れで行動している際には1羽飛ぶと他の個体も順次飛び立ちます。
トキの観察については幾つかルールが決められているようなので予め調べておくことをお奨めします。

 


トキの観察について気になったのがこちらのシーン。

 

 

狭い堰?のような場所に入り込んで採餌をしていましたが、ちょっと背丈のある草の陰になると姿が全く見えなくなってしまいました


稲刈り前の田んぼではこの様な状態で見つけることが難しいかもしれません。

 

 

トキの観察については稲刈り後で発見が容易になる10月~11月がベストシーズンになるようです。
またこの時期は換羽が進み擦れの無い綺麗な朱鷺色の羽を見ることができるでしょう。

 

※10月2日時点で半数の田んぼが稲刈り前の状態でした。

何の変哲もない映像ですがここで少しだけ撮影した動画を。

 

 

観察を続けていると何処からともなく次々にトキが飛来。

そのうちの1羽が直ぐそばに降りてきました。

 

 

暫くその様子を見ていると群れで飛ぶ姿も。

またこの時にようやく確証を持てましたがトキは複数で飛ぶ前に『コッコッ』という鳴き声を発するようです。

何かしらの合図なのか会話をしているのかまでは分かりませんが『グァー』という大きな声を発する時に比べ声量は低めでした。

 

 

少しずつ陽が傾き始めていたので、塒入り前で日中とは行動が変わってきたのかもしれません。

遠巻きに飛ぶ姿もこれまた優雅。

 

 

一頻り観察できたところで塒入りの観察をしてみることに。

佐渡島にはトキに関わる施設が幾つかあるようで、今回は『トキのテラス』という施設を訪問。

 

 

こちらの2Fは屋内観察室になっていて、環境省の方からトキに纏わるお話を聞かせて頂くことができました。

 

2020年10月2日現在、佐渡島で放鳥(生存扱い)されている個体は170羽。

野生下生まれの個体(推定個体)が288羽。

288羽のうち足環装着個体が125羽で足環無し個体が163羽だそうです。

また塒立ちの時間は午前5時~6時半頃。
塒入りの時間が午後17時~18時頃とのことでした。

屋上の展望デッキは24時間解放されているとのことだったのでそちらに移動して塒入りの観察をしてみることに。
屋上からの眺望です。

 

 

この場所から眺めていると其々の塒に入る様子が見られるとのことだったので、暫く眺めていると時間の経過と共にあちこちから飛来するトキを見ることができました。

日没間際に見るトキは幻想的。

 

 

群れで塒入りする姿も。

 

 

この日観察を終えたのが17時半。

終日トキの観察を楽しむことができましたが、腰の状態は最悪。
今回の日記では触れていませんでしたがとにかく歩くという動きが一番辛く、テラス以外は車内からの観察だったのが不幸中の幸いでした。

夜は宿泊先の温泉を楽しみにしていましたが、部屋から出る気力も無くシャワーだけで簡単に済ませ早めの就寝をすることに・・・

 


腰の痛みとは引き換えにトキの観察は申し分の無いものになりましたが、翌日はまた違った観察をすることができました。
そちらの様子は後日更新の日記に続きます。