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2020年5月10日 18/13℃ 曇り時々雨




今回は少々マニアックな観察記。

春の渡りは後半戦に突入していますが、今季は夏鳥の渡来が遅れているようで渡り鳥の通過もだらだらと続いているようです。

秋田は農繁期に入ったことで、稲作に従事される農家さんの姿があちこちで見られるようになり、早いところでは田植えの終わった水田もありました。

秋田ではゴールデンウィークの頃から水田に水を引き始め、代掻きが行われるようになるとシギチたちを目にするようになります。
ちょうどシギチの渡来時期と水田に水を張る時期が重なることから田植え前の田んぼには旅の途中のシギチたちが立ち寄り日替わりといった形で観察をすることが可能。


シギチは種類が豊富であり、同じフィールドでもしっかりと観察を行えば新たな発見、新たな出会いに恵まれることも多く非常に奥の深い分野でしょう。

しかし秋田で見られるシギチは渡りの途中ということもあり現地に行くまではどの様な観察をすることができるか想像もつかないのでいつも出たとこ勝負。

 


果てしなく続くと言えば大袈裟かもしれませんが、何処を見ても田んぼといった地域を回っていると一枚の田んぼにチュウシャクシギが6羽とトウネンが40羽ほど入っていました。

取り合えず近くで採餌をしていたトウネンを撮影。

 

 

シギチを観察するうえで一番ポピュラーな鳥ですが、私にとっては今季初。

トウネンは群れで行動することが多く、群れのなかには変わった種が混ざることもあります。
そこで1羽1羽チェックをしていくと・・・

 


ヨーロッパトウネンが1羽混ざっていました。
かなり離れた場所に居たのでここからは全て拡大画像。

 

 

興味のない方からすると「何が違うんだ?」という話になると思いますが、トウネンとは別種。

通称ヨロネンと呼ばれるこちらの鳥、トウネンと見分けるには複合的に判断する必要があります。

 

 

識別ポイントしてよく言われるのが足の長さ。
間接から上の部分がトウネンよりも長いため、採餌をする際に前傾姿勢になると仰る方もいるようです。

他には、嘴の細さ・喉の白さ・背中のVラインが明瞭さ・初列風切の突出具合など様々ありますが幼鳥と成鳥の違いであったり個体差もあるため複合的に判断しなければなりません。

 

 

なかなかこちら側に来てくれないヨロネンを観察していると突然のどしゃ降り。

この日は風も強く窓を開けてられない状態だったので、一度この場所を離れ風上側で観察できるシギチを探すことにしました。

風上側であれば雨が降っても観察に支障はないので、上手い具合いにそんなシギチが入っていないかと車を走らせていると・・・

 


「ん?何か動いたような」

水路沿いを移動していると葦を刈った場所で何かが動いたように見えたため車をゆっくりと後退。

パッと見た目に鳥が居るようには見えませんでしたが何かが動いたのは確実。
慎重に辺りの様子を探ってみると草の隙間に潜むジシギを発見しました。

 

 

パッと見た目にオオジシギでもなければタシギでもありません。

勿論ヤマシギ・アオシギ・コシギは外れます。
残るのはチュウジシギがハリオシギのみ。

当該個体との距離は約4mと比較的近い距離でしたが、幸いなことに警戒して飛ぶこともなかったのでじっくりと観察してみることに

肉眼での見た目に近付けるため、生息環境を広角レンズで撮影してみました。
矢印の先に潜むジシギが写っています。

 

 

今時期は田んぼに水を引くため水門が開けられていることにより水量が増し、謎ジシギの居る場所は湿地状態になっていました。

さて問題はこちらの謎ジシギはチュウジシギなのかハリオシギなのか。

 

 

ジシギを識別するうえで先ずはタシギをしっかりと観察することが大事だと言われています。

一言でタシギと云っても個体差があり羽の特徴もバリエーションが豊富。
そこで着目するのが翼下面で、以前観察したタシギの翼下面が分かり易い画像を拡大してみました。

 

 

タシギが翼を広げると白っぽく見えるのが特徴です。

一方、今回観察できた個体の翼下面は黒っぽく見えタシギとは異なることが見て取れました。

 

 

この他に比べてみるのは過眼線。


嘴の基部から眼の前後を通る線ですが、タシギの過眼線は太いことに比べ今回観察できたジシギは過眼線が細い特徴を持っています。

 

【 タシギ 】

【 チュウジorハリオ 】


 

タシギの識別点については尾羽の数・翼を広げた際に見える次列風切の先端部の白さ・肩羽や下雨覆の特徴など様々ありますが、Webで検索してみると観察眼の長けた方々が詳しく説明しているのでこちらでは割愛。


小難しい話が続いてしまいましたが、観察の様子に戻ります。

草の隙間で眠そうにしていた謎ジシギを暫く見ていると、羽繕いを始め伸びのポーズを見せました。

 

 

決定的なチャンスでしたが残念ながら外側尾羽が見えず・・・
こちらをしっかりと確認することができればチュウジシギなのかハリオシギなのか決定打となっていたのですが。

ストレッチが終わると葦の隙間を縫うように移動。

これがビックリするほどの速足。

 

 

浅瀬となった地面を所々突っつきながら移動を繰り返し、獲物の存在を察知すると嘴を深く挿し込みます。

 

 

土壌に潜むミミズを引っ張り出すと何度も咥え直したり、一度地面に置いて突っついてみたりと獲物を弱らせている様子を見ることができました。

 

 

グロッキー状態になった獲物は丁寧に水洗い。

大型連休中に観察することができたエリマキシギも同様にミミズを水洗いしていましたが、エリマキシギよりも丁寧に水洗いをしていたようです。

 

 

水洗いが終ると一気に丸呑みしていましたが、一連の行動をタシギと比較してみると移動以外の行動はゆっくりしているように思えました。
タシギの方が忙しく動くように感じます。


採餌の合間に時々伸びをしていましたが、いずれも向きが悪く尾羽がしっかりと見えません。
そのようななか、尾羽が見えた瞬間に合わせ連写した画像を確認してみると一枚だけ外側尾羽を7枚確認できる画像がありました。

矢印を付けた細い針状の羽が外側尾羽で、この画像からハリオシギであることが判明。

 

 

私はチュウジシギを疑い観察を続けていましたが、ジシギに詳しい県外の知人に画像を見て頂いたところ『 外見からハリオシギの可能性が高い 』というお話があり、知人の見解を参考に改めて画像を再確認し検証を進めたところ、尾羽の突出具合がかなり短いように見受けられます。

 

 

個体差もあり一概には言えないようですが、こちらもハリオシギに見られる特徴で以前観察したチュウジシギと比べてみたところチュウジシギの尾羽はハリオシギよりも突出していることが分かりました。

今回は外側尾羽を確認できたことでハリオシギだということが分かりましたが、チュウジシギと外見は酷似していることから識別の難しい種だと言えると思います。

 

野鳥の会 秋田県支部のHPで秋田県鳥類目録を確認してみたところ、他のジシギの記録はありますが何故かハリオシギとチュウジシギの記録がありません。
おそらく今まで何人もの方が観察していたとものと思われますが、確信に迫る部分が見えなかっただけだと推測します。

つまり今回のケースは運が良かっただけ。


さてハリオシギと分かったこちらの個体、大きなミミズを2~3匹食べると休憩場所が決まっているかの如く早足で戻ります。

 

 

餌場と休憩場所が確立しているようで、休憩場所に戻ると15~30分ほど腰を下ろして羽を休めていました。

その際にトビが頭上を飛ぶと気にする様子が見られ、こちらの場所に移動していたのは猛禽に狙われないよう安全性を確保するためだったようです。

 

 

お腹が満たされ眠くなると嘴を脇に隠し暫しの休憩に入りました。

 

このような行動が何度も繰り返し行われたことで撮影にも余裕ができ、ウトウトする場面を少しだけ動画で撮影。

眠そうにする様子とあくびをする姿を見ることができます。

 

 

今回出会うことができたハリオシギは行動に合わせ車を移動しても警戒することかがなかったため、観察の醍醐味をたっぷりと楽しむことができました。

休憩~採餌を繰り返し見ることで今まで見ることのできなかった部分にも迫ることができましたし、本当に運が良かったと思います。

 

 

長時間観察を行い改めて感じたことを一言で表すと・・・

「可愛い」

この一言に尽きます。
結局のところ見た目の第一印象に戻ってしまいますが、私の目には何をしても可愛らしく映りました。

 

 

私なりに分かり易い記事になるよう柔らかな説明に努めましたが、やはりマニアックな内容で長々と語ってしまいました。

ハリオシギの観察記はここまでですが、いつか機会があればチュウジシギも同じように観察できればと思います。

本日の観察日記はこれにておしまい。