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2021年1月3日

 

 

 

 

今回の日記は蔵出しのイヌワシ観察記。

昨年は様々な野鳥を継続的に観察していましたが、今回公開するイヌワシも同様に精を出して観察を行いました。
保全上、観察場所の守秘からも現在まで公開を控えてきましたが年が明けたこのタイミングで観察の様子を綴っていきたいと思います

今回イヌワシの観察記を公開するにあたり、保護の観点からも場所だけではなく観察時期に関しても詳細に触れないことをご承知おき下さい。


秋田県内においてイヌワシの生息は数ヶ所が確認されていますが、私の知る限りここ数年繁殖の成功は確認されておりません。

元々繁殖の成功率が低い鳥とあって全国的に個体数は減少傾向にあるため、狙って観察できる場所は限られているようです。
残念ながら秋田県内においては狙って観察することができないため、僅かな望みに掛けて生息場所へ通う必要がありました。

眼下を飛翔するイヌワシ。

 

 

何時、何処から現れるか分からないイヌワシをただひたすら待つという形での観察になりますが、一瞬でも姿を見ることができれば良い方で空振りするのは当たり前。

1カットでも撮影に至れば上出来という苦行とも思えるのが秋田県内でのイヌワシ観察です。

辛い時間が続くからこそ姿を見せてくれた時の喜びは大きく、空振りが続いても懲りずに観察地へ通ったものでした。

 

 

姿を現しても遠くを飛ぶ事が多く、肉眼で見える姿は米粒ほどの大きさ。
そのため一度視点を外すと見失ってしまうことも屡々。

ワシと言うくらいですから体長が大きく、飛んでいると目立ちそうな気もしますが広大なロケーションの中では意外と目立ちません。

地味な羽色が上手い具合いに背景に溶け込んで見えるのがその理由となります。

 

 

平地で見るオオワシやオジロワシとは異なり、地味な特徴はトビに似ており「渋い」といった印象。

若い個体ほど白斑が目立ちますが、生後5年ほどで成鳥羽に生え換わり地味な印象はより一層強くなります。
その為イヌワシを撮影するカメラマンはイヌワシの特徴が目立つ若い個体を狙うのだとか。

こちらは4年前の秋に偶然見ることのできたイヌワシの若い個体。

 

【 翼上面 】

【 翼下面 】


 

イヌワシの幼鳥は巣立ちを迎えると親鳥から狩りの方法を学び親鳥と共に暮らしますが、親鳥が再び繁殖行動に入る秋、親鳥の縄張りから追い出され新しい居場所を求めて迷行します。

昨年の秋にも普段生息しない場所でイヌワシの姿が確認されていました。
撮影された方から問い合わせの連絡を頂き画像を拝見したところ、やはり若い個体の特徴を示しており何処か居場所を求め彷徨っていたようです。


イヌワシは種の保存法による国内希少野生動植物種に指定されていますが、生態・繁殖成功率の低さ・環境の変化により個体数の減少に歯止めが利きません。

 

 

様々な要因が重なり個体数は減少傾向にありますが、その原因の1つに餌不足の問題 もあるようです。

日々野山を駆け巡り、夜の観察も頻繁に行うようになって感じるのがノウサギを見る機会が減ったという事実。

イヌワシにとって主な食料となるのはヤマドリ・ヘビ・ノウサギが挙げられますが、とりわけノウサギに関してはフィールドで出会う確率が減りました。

 

 

原因については詳しく分かりませんが、私の憶測では環境の変化が関係しているのかもしれません。

林業が衰退し、手入れがされなくなった山では生き物が棲み難い環境になってしまいす。
普段私が観察している場所でも手入れがされなくなったことで藪が混んだ状態となり、一見して自然が多くなったように見えても鳥の数は減少してしまいました。

山も同じように下刈りとある程度の間伐を繰り返すことで様々な動物が暮らしやすい環境になると思います。

 

 

ノウサギが生息数を減らす要因とも考えられる環境の悪化はイヌワシの狩りにも共通しており、イヌワシの個体数を維持する為には狩り場となる空間の確保が必要です。

整備のされなくなった山ではノウサギと同様に餌となるヤマドリの捕獲もすることができません。

私が観察をしていたイヌワシも獲物を探していたのか、開けた場所を行ったり来たりする姿が見られました。

 

 

自らの空腹を満たすだけの食料を確保できれば生きていく上で問題ありませんが、餌の問題は繁殖の成功率に直結します。

育雛の段階で雛が成長するにしたがい餌の要求量は比例するように多くなりますが、餌不足から巣立ちを迎える前に命を落とすケースも・・・

日本に生息するイヌワシは推定で400~500羽と言われていますが、少しでも個体数が回復することを願ってやみません。

 

 

観察記と言いながらもほとんどが生態や環境問題についての話になってしまったので、ここでちょっとした四方山話を・・・

イヌワシの英名はGolden Eagleと言いますがこれは後頭から後頸にかけて金色の羽を持つことが由来しています。
こちらの画像では象徴とも言える金色の羽を見ることができました

 

 

生態系の頂点に君臨することから、シンボルやマスコットになることもあるイヌワシは戦闘機部隊のマークとしても用いられています

第6航空団 飛行群 第306飛行隊の別称はGOLDEN EAGLES.

 

 

第306飛行隊はF-15戦闘機の中でも近代改修された最新の機体を運用する部隊。

日本におけるTOP GUNの部隊として戦技教育を行う戦技課程を有しており、隊のマークであるGOLDEN EAGLEは石川県の県鳥イヌワシがモチーフになっています。

 

 

ゴールデンイーグルスと言えば一般的にプロ野球の楽天が有名ですが、個人的にはGOLDEN EAGLESと言えば思い出のある306飛行隊。
イヌワシは意外な場所でもモチーフになっているという例を挙げてみました。


話がだいぶ逸れてしまいましたが、森林率約70%の我が国で森林生態系の頂点に君臨するイヌワシは日本の象徴と言っても過言ではありません。

イヌワシが生息できる環境は生態系のバランスが取れている証拠でもあり、そのような自然は私たち人間にとってかけがえのない財産となるはずです。

 

 

孤高の如く生態系の頂点に立つイヌワシがこれからも悠々と羽ばたけることを願い、今年も機会をみて観察にあたりたいと思います。

 

 

 

本日の日記はここまでとなりますが、先月30日の日記に記載した通りケガの回復を第一に考え年末年始は大事を取る予定としていました。

 

しかし家でゴロゴロしてばかりでは精神衛生上よくないと考え、気分転換の為に少しだけと観察に出てみたところ予期せぬ出会いに恵まれ大晦日は有終の美を飾ることができました。

 

更に元日から連日のように嬉しい出会いに恵まれ、蓋を開けてみればフル稼働の年末年始。

その結果、撮影枚数が膨大な量となり選定作業が追い付かないまま新たな観察日を迎えています。

 

業務多忙に加えて観察種も多いことから年末年始の観察記は何回かに分けて更新する予定ですが、楽しかった観察を振り返りのんびりと作業に当たりたいと思います。